2010年10月31日日曜日

ボツ案



個人住宅のプランを考えて欲しいとお話があって
プレゼンテーションをわりと簡単にいいですよと、答えてしまうことがある。


だいたい最初の提案は無料ですというのが一般的だから
それはそれでいいと思う。
こちらも寝る間も無いほど忙しいのであればお断りもするが
今どきの設計事務所、そんなに忙しいわけがない!(当事務所だけかな?)

若いスタッフ達には格好の実践経験になる。
私の事務所は基本的に住宅のプランは、全員参加の社内コンペをまずやって
その中でいいプランを施主さんに提案する方法をとっている。

どなたかの紹介というケースが多いので、あまりボツになるケースは少ないのだが
最近は色々な事情もあり(資金計画のメドがつかない、購入予定の敷地がダメになったなど)
契約まで進まないこともある。

一番困るのがお互いの性格の不一致。
出来るだけ時間をかけ、ヒアリングを繰り返して互いに認識の一致というか
合意を得ようとがんばるのだが、ダメなものはダメで結局陽の目を見ないものもある。
空しさだけが残りどっと疲れがでてしまう。

もちろんすべてが上手くいくとは思っていないが、最終的には敗戦処理をしなくてはならない。
預かった資料の返却、そして提案した図面類、模型の引き取り。
これがまたなかなかスムーズにいかない。
最初にお話をいただいた時点で、きちんと説明をしなくてはならないのだが、
他の部分で盛り上がってしまいついつい忘れてしまう。ダメだな!

著作権や知的所有権などを振りかざす気はないが、こんな小さな仕事にもそういったものが
あることを理解してもらえないケースがある。
設計者よっては契約まで図面、模型は見てもらうだけで渡さないという方もおられるらしいが、
どなたかの紹介であれば、そうそうつれなくも出来ない。

そんなことも上手く解決できないのは、まだまだ人間的に未完成ということか。

2010年10月29日金曜日

工事状況



本日は「京橋プライマリーワン」の定例会議でした。

現在7階施工中。年内に10階までコンクリートが打ち上がります。
2階では内部の造作が進行中です。
住戸内部の仕上げもほぼ決まって、竣工に向けて加速してます。
  
工事中の南面と北面。シートで養生されているため中の様子はわかりません。
先日、学生達が工事の様子を見学に訪れました。
11月初旬には外壁タイルの焼き上がり検品のため、岐阜の生産工場へ出かけます。


一方、狭山のフルスケルトンリノベーション住宅では、先行するRC造のガレージを配筋中。
同一敷地内の東と南にそれぞれガレージが必要なため同時進行で工事をしています。

11月に入ると内部仕上げの詳細打合せが始まります。
かなりのボリュームですが、効率よく決めていかないと工事に影響するので大変です。

神戸の(仮)「海に背を向ける家」 は1階がRC造、2、3階が木造でSE工法(木骨ラーメン構造)を
採用し設計を進めています。
今はクライアントと平面計画の最終調整中。年内には古屋を取り壊し、地盤調査に入りたいと
考えています。施主様と年齢的に近いこともあり、肩の力を抜いて仕事が出来そうです。


牛窓の櫻山居では11月1日に引越しをされるそうなので、お奨めのCDを持って
近々お伺いしようと思っています。
バング&オルフセンのスピーカーから流れ出す音が、雑木林にどんな風景を作り出すのか?
とても楽しみです。















2010年10月25日月曜日

ご招待





先月末にリノベーションが完成し、ちょっと落ち着いた神戸市東灘区の渦森台の家。

昨夜、奥様から「夕食をご一緒しませんか」とお誘いいただいた。

設計した住いが完成した後、実際にお邪魔して生の生活の声を
聞くことが少ないスタッフ共々喜んで伺わさせていただいた。

新しい住いをとても楽しんでいる「Kさん一家」にちょっと一安心。
その様子がこんなちょっとしたニッチにも感じられ、
温かな家族のライフスタイルが思い浮かびます。


「日常の中に見える小さな幸せをしっかり抱きしめられる空間」を
設計コンセプトにしてデザインを進めたのですが、まさにその生活を実践されていました。


せっかく作っていただいたのだから、オープンハウスでも何でも協力しますと
ご夫婦声を揃えておっしゃってくださいました。ありがたいお言葉です。

仕事でストレスが溜まっても、家に帰ってくるとそれを忘れられる空間だし
木の持つ「優しさ、安らぎ」と漆喰壁による「空気の清浄感」をすごく感じるそうです。
今までお子さんは床に座ったり寝転んだりすることが少なかったそうですが
リノベーションしてからは、この床の上で色々なことをするようになったと話されてました。
米杉で作った本棚はどんな使われ方をするのか、とても楽しみにしていたのですが、
まさしくデザインする際考えた通りのレイアウトになっていました。
サンルームには「きなり色のローマンシェード」と「えごま油」を塗った桐材のベンチが完成し、
温かみのあるファブリックなどで設えがなされてました。
何か気負いの無いごく当たり前の空間になっていた事が、我が家に帰って来たようで
とても嬉しかったです。
牛窓の「櫻山居」を近いうちに一度家族でお尋ねしたいとのことなので、
引越しが終わり落ち着かれたらご一緒することにしましたが、
櫻山居のKさんいいですよね?








2010年10月23日土曜日

海に背を向ける家




7月に初めてお会いして、ヒアリングを続けていた神戸の山手M邸。

夏の暑い日、汗だくになりながら坂道の日影を探しながら上った日が
遥か昔に思えました。

プレゼンギリギリの昨夜まで、学生達が模型作りを手伝ってくれて
今日、正式に設計を進めていくという事で承認をいただきました。

平成24年1月竣工予定の混構造3階建てです。

この計画は神戸の山手だからといって、何がなんでも海側に建物を開くのではなく
あえて海に背を向け、内部空間をいかに豊かに表現出来るかに知恵を絞っています。

空間が幾層にも重なり合い、フロアレベルの変化が空間に新しい視点を作り出す。
住い手はその質の変化と光、空気の動きを楽しみながら生活するのです。

そしてご夫婦とも「美食家」。
仕事もそうですが、これから一緒に色々な「食の冒険」も出来そうで
私はそれも大いに楽しみにしています。


建物が街並みから飛出しないことが条件です。

「櫻山居」が11月初旬に引渡しになり、
お住いの阪神間から瀬戸内市牛窓へ移転されるのですが
今度は神戸市で新しい建物を作ることになりました。

よくよく考えてみると、この仕事を始めてからずっと仕事が切れないで、
神戸の街とつながっています。

継続して仕事を依頼してくださるクライアントの皆様、本当に感謝しております。

これからも宜しくお願い致します。






2010年10月17日日曜日

宝物その2




牛窓「櫻山居」では一通りの工事が終了し、施主による居室の塗装工事が始まった。

元々は工務店にて施工する予定の工事だったのだが、
自分達の住いを自分達の手で少しでも完成させたいという施主の思いと、
また床を「エゴマ油」、壁面を「Farrow&Ball」社の水性ペイントで仕上たいということもあって
個室部分の施工作業を自らされることになった。

今日はその作業様子を拝見に伺った。

「櫻山居」に伺うと、Kさん親子でひたすらペイント作業をされていた。
とてもきつい作業だけど、楽しくやってますと答えられるお二人。
コツを覚えてスピードアップ出来るようになったそうだが、
養生テープをきちんと貼っていくことが一番しんどかったらしい。
やはり大変な作業だと思います。
2階個室部分をペイントされるKさん。
このブルーは自分の部屋にどうしても使いたかったそうだ。

この1年近く牛窓へ通っていたが、「櫻山居」に隣接するオリーブ園の中に入る余裕もなかった。
Kさんからオリーブ園にある展望台から、一度敷地を見て欲しいと言われていたので
今回、丘の頂上にある展望台へ上ってみた。
遠くに小豆島、隣接する前島、そして牛窓の町並み。
木立の間、中央辺りの広くなっている場所が「櫻山居」
俯瞰してみると、いやー!実にすばらしいロケーションです。

凄いなあと思ったのは隣接するオリーブ畑が、すべて「櫻山居」の敷地に見えること。
とてつもなく広い敷地に建っているように見えるのです。
展望台から眺める人は随分広い敷地に建つ家だと思いますよKさん!

そしてこの「櫻山居」の宝物2つ目は「夕陽」
牛窓は「日本の夕陽百選」に選ばれるほど美しい夕陽が見られるのですが、
昨日も半端ではない美しい夕焼けを見ることができました。
先日の宝物のブログや写真を見た、学生たちがその光景を自分の目で確かめたいと
「櫻山居」へ同行していたのですが、夕刻、昼間晴れていた空がだんだんと曇り空になり、
今日は夕陽を見るの無理かなあと、学生達内心ちょっとがっかりしていました。
しかし、自然の神様は演出が憎いですねえ!
これから美しいショウが始まるなんて思いもよりませんでした
東の空の雲も茜色に染まり始めました。玄関アプローチも赤く輝きだします。

徐々に薄いオレンジ色から濃いオレンジ色へ空が変化していきます。
黒色のサッシも染まってブロンズ色に見えます。
その場にいた全員が呆気にとられこのショウを眺めていました。
暮れなずむ「櫻山居」。徐々にフィナーレと向かっていきます。


この間、時間にして40分ほど。そして日々違う夕景を見ることができる牛窓。
この夕陽を見ながら、お母様からこの場所を選んで良かった、
そして「スタジオクランツォ」に設計してもらって、
本当に良かったと、嬉しいお言葉を頂きました。
まだまだ宝物がいっぱいある「櫻山居」です。近々またご紹介します。














2010年10月11日月曜日

連休




連休の日曜日の夜、KOさんと久しぶりの食事会。
西天満にある、KOさんが最近お気に入りのフレンチ「ユニッソン デ クール]へ。

淀屋橋から久しぶりに中ノ島を歩いて向かった。
雨後のせいか空気が澄んで、川面に映る西梅田の高層街も美しく見えた。

この店、今年春オープンしたのだが、中々タイミングが合わず、行けず終いになっていた。
だから期待もしておりました。
ましてやすごいワインコレクションをお持ちのKOさんとご一緒なので、
下戸な私でも今日はどんなワインを持参されたのか気にかかるところ。

KOさん数日前に腰を痛められたそうで、しきりに腰を触られていた。
食前にわざわざシェフがテーブルへ挨拶に来られ期待も高まる。

素晴らしい特別料理がメインまで一通り終わったところで、
残念ながら腰の痛みがひどくKOさんが退席される事になり、
僕達だけが残ることになった。

手が込んだシェフの料理をすっかり堪能し、素晴らしいワインとのマリアージュを楽しみ
デザートもしっかり2品いただきお腹いっぱいになった頃、
3人分のお茶菓子が運ばれて来た。

う~ん。さすがにこれを完食するのは無理だなと白旗を上げ
持ち帰りさせて頂く事にした。
ちょっと欲張ってカヌレだけ食べさせていただいたが、素晴らしく美味しかった。

しかし、本当にKOさん大丈夫だったんだろうか?心配です。早速メールを送らなくては。   

さてさて、そして今夜はクライアントのN社長の快気祝いで、またまた北浜のフレンチへ。

梅田から北浜まで行き帰り共、やっぱりウォーキングですよね!   

2010年10月10日日曜日

森の斎場



大学1年の夏、父が急死し下宿生活に余裕が無くなってしまった。
母に金銭的な負担を出来るだけかけたくなかったので、
最低限の仕送りをしてもらい、あとはアルバイトでなんとか食いつないだ。

夢は諦めていなかったが、海外を放浪したり仲間と馬鹿なことをしたりといった
学生らしいことは何も無いままに何とか卒業だけはした。

今思えばそれが良かったのかもしれない。
知識に対する飢えや探究心はずっと忘れることがなかった。
社会人になり、もう一度勉強をしたいと思い、やれることはやってみた。

そんな時、人は、例えば知識に飢えてそれを吸収しようとする時、
とんでもない情報量を頭に蓄えることが出来るんだと思った。
空腹時、腹いっぱい食べ物を詰め込むとそれが全てエネルギーに変わるような
そんな充実感を感じた。

歳を重ね少しずつ余裕が出来て、旅をするようになった。
さすがに若さに任せた無謀な旅は出来ないが、少しだけ大人の視線で
世界を見ることが出来るようになったと思う。

ストックホルム郊外にあるアスプルンドの「森の斎場」を訪れた時、
誰もいないこの空間で一人の日本人学生と出会った。
早稲田大で建築を勉強しているという彼は、夏休みを利用して一人で北欧を回っていた。
彼はベンチに座り、スケッチをしながらこの風景を一生懸命「記憶」しようとしていた。

学生時代、したくても出来なかった事を彼は実行していた。
それが羨ましい事とは思わなかったが、若者の純粋な視線で
見たもの全てを「記憶吸収」して欲しいと思った。
互いに感じるものは違うかもしれないが、アスプルンドへの畏敬はどこかで通じているのだろう。
このとてつもなく広い敷地の風景の中、人間は僕達しかいないのだから。

彼は僕が旅しているルートと反対に、この「森の斎場」を見た後、その夜のフェリーで
フィンランドへ向かうと言った。
諸外国の多くの建築巡礼地で学生達を見かける。彼らが何を見、何を感じているのかは
わからないが、少なくとも見たものすべてを「記録」するばかりでなく「記憶」して欲しい。
「記録」はどこかで紛失してしまうこともあるが、「記憶」は脳内のどこかに保管されていて
必要な時必ず情報提供されるはずだから。。。。









2010年10月8日金曜日

宝物


昨日は牛窓の「櫻山居」の施主、設計検査でした。
養生を取り払って、やっと全貌が確認出来ました。


この「櫻山居」にはいくつかの宝物があります。
今回はその一部をご紹介します。

まずは圧倒的な光の量です。もともと瀬戸内海は晴天の日が多いのですが、
この「櫻山居」の立地は建物を遮るものがほとんどありません。
日の出から日没まで一日中、陽が当たります。
ですから色々なところから光が侵入してきます。それはもう本当に刺激的です。
夏の日中はそれこそ、うだるような暑さではと思うのですが、ここは牛窓、
海も山もあり、日中は周囲の木立を抜けて気持ちのよい海風が吹いてきます。
都会の蒸し暑さなどぜ~んぜんありません。
2階の個室には南からの太陽が気持ちよく降り注ぎ、夕刻になるとアプローチには
美しいシルエットが出来ます。

土間の版築のスリットからも光が伸びてきます。階段の壁にもこんな光が。。。

夕刻、この建物では自然が作る感動的な素晴らしいショウが始まります。
夕陽が輝きだすと版築もオレンジ色に染まります。
その間にあるFIXを覗き込んでみると、階段のシルエットの向こうに
朱色の壁が垣間見えました。

あまりにも美しいので玄関土間に移動みると、コールテン鋼の扉の上にある
FIXガラスの間から一筋の光がシャープなラインを作っていました。

扉を閉めてみると今度は横の縦長FIXガラスから、夕陽が壁全体を何ともいえない美しい色に
染め上げています。思わず、施主のKさんご一家を大急ぎで呼びました。
朱色の光は壁だけでは物足りず、土間全体を薄紅に照らしていたのです。

元々この壁は鉄錆色の珪藻土で仕上てあるのですが、その色を上から塗りつぶすように
夕陽が茜色の壁を作っていきます。本当に自然は天才的な芸術家です。
この色どこかで見たことがある色と考えていたのですが、そうそうイタリアのテレニア海浮かぶ
ナポレオンが幽閉さた島、エルバ島のポルトアズッロでよく見かけた壁とまったく同じ色。

夕陽が見られる日は毎日こんな色に染まるのでしょうか?
空気の密度と光の強さ、沈む太陽の緯度が日々変化するので、
また違った光景が見えるのかも知れません。それにしても本当に羨ましい。
これが日々見られるのですから。ずっと見てても飽きないと思います。
建物の外観も時間により変化します。左から日中、夕刻、日没前。
最後は紫色から漆黒に変化していきます。
手焼きの焼杉は表面の炭化部分がいぶし色の光沢を持っているので、
染め上がる色に反応しやすいようです。
工事を担当している元浜組の小橋さんはこんな情景になることを以前から
気が付いていたようですが、どうも内緒にして今回みんなを驚かそうとしたようです。