久しぶりに自分で模型を作った。
いつもなら誰か若いスタッフが作りましょうか?と言ってくれるのだけど、
今はそれぞれがそれなりの仕事をかかえているし、
それとなく「やって欲しいオーラ」を出してアピールしてみたが
みな色よい返事をしてくれない。
仕方なく模型材料屋さんに出向き、必要な材料を買ってきて自分で作り始めた。
単なるスチレンボードの白模型ではプライドが許さない!と一人決心し、
クライアントの「Yさん」ご夫婦には「イメージがすごくわかりやすい!」と
言ってもらいたいがため、それなりのテクスチャーを仕上に使ってみた。
この「記憶の家」は家業であった醤油醸造所の家屋をモチーフにしている。
10代まで暮らしたこの土地に、家族を連れて帰ることになった「Yさん」に生まれ育った
家の匂い、情景を記憶として残してもらいたいし、まだ幼いお子様につないでいって
欲しいと思ったからだ。
最近、歴史や伝統、風習など過去から引き継いできたものを将来へつなげて行きたいと
思う気持ちが強くなってきた。
単に歳をとってきたからかも知れないが、よそ者の設計者がコストや設計の都合で
そこに存在した「何か」を いとも簡単に切り捨てることは出来ないはずだ。
だから空間の内外部にその痕跡を残したデザインを考えた。
住いの入口は外玄関と内玄関があり、その先には暖炉のある通り土間が置かれている。
土間の向こうには蛇籠とコールテン鋼の外塀があり、足元の一部が切り取られている。
(写真は事務所の芝生を稲に見立てて撮影したが、足元の緑など実際の風景も同じはずだ)
青々とした田植え後の稲など南に広がる田畑や空気、光、自然の変化を足元から
しっかり感じて欲しいと思った。
またリビングの北側の格子窓からは、唯一残っている醤油醸造所のレンガ煙突が
見通せるように配置してある。
蛇籠に入れる石はこの辺りで産出される御影石を使う予定だ。
その外塀の間に美しい風景を切り取るコールテン鋼のスクリーンが立てられる。
石積みの雰囲気を出すのが大変でした。
3ミリほどの石を選別する作業はほとんど内職のような地味な仕事でした。