2012年4月26日木曜日

料理写真


定期的に食事に行く料理店があります。
そのお店は僕が行きたい日を予約をするのではなく
お店が僕に来て欲しい日を決めています。

だから、毎回いついつの何時に来て下さいと
亭主より連絡があります。
僕も何のためらいもなく、指定された日時に伺うことにしてます。

その料理店は店名の看板も出してません。
営業してるのかそうでないのかわからないお店です。
















彼の料理を食べることが出来る人は限られています。
一日一組ないし二組しか接客しません。
それ以上はモチベーションが持続出来ないんだそうです。

料理を味わうことも勿論ですが、それ以上に彼の料理を
写真を使って記録することに僕は専念しています。
とりあえず1年間彼の料理を追いかけています。

僕の仕事である建築は余程でない限り存在が無くなる事は
ありませんが、料理は食べてしまえば味覚の記憶としてしか
残りません。

自分の中では記憶として残っているけど、今まで作ってきたものが
記録として保存されていないから、料理の写真を撮って欲しいと
亭主から頼まれました。
「僕は写真家ではないので上手な写真は撮れないよ」と答えたのですが
「自分の料理は食べる人にどのように見えているのか知りたいから
お客さんである山口さんがいいんだ」と彼は言います。





























だから美味しそうと感じたままの食材や料理の写真を撮っています。
彼は僕と同じ建築家の匂いがぷんぷんしますが、
生粋の料理を極めようとしている職人に間違いありません。
だからそんな彼や彼の料理を好きなお客は大勢います。
僕もその一人ですし、彼の料理を食べた友人達はみな
彼のファンになります。

西天満にある「松弥」という小さなお店です。

2012年4月25日水曜日

淡い光



昨日は引渡しに近づいた「海に背を向ける家」の打合せ。
内装のほとんどをイギリス産の自然塗料で仕上ています。

もう間もなく内部は完成しますが、その穏やかな色合いを生かすため
室内のあちらこちらからスリット状の自然光を取り入れ、
淡い光が作る陰影が空間に優しい表情を与えてくれるよう配慮しました。

例えば写真のスリットはリビング天井と壁との境に設けました。
天井部分から隣家の建物を見せずに光だけを取り込みたかったからです。
そのスリットは壁の端部にも作ってあり、ウォームグレーの塗装壁を
より際立たせる役目を果たしています。





















































壁と天井のスリットはこんな感じで作られています。
実際に家具なども入ってませんので、
雰囲気はわかりにくいですが、ふわっとした浮遊感のある
リビングスペースになっています。














玄関天井部分もトップライトをスリット状にしてあります。
紫色のラインはアクセントではありません。
養生テープです。
このトップライトの下を通って、階段やEV入口へ
向かうのですが、玄関ドアを開けた瞬間、光の帯が
奥へいざなうように目に飛び込んできます。
養生テープがぶら下がり、あまりきれいな写真ではありませんが
階段途中にも小さなトップライトが設けられていて、
出来るだけ昼間は照明を点灯しないで、自然光の美しさを
楽しんで欲しいと考えています。

正面に見えるのは壁の中に埋め込んだ階段手摺り。
窪んだ壁の陰影が表情を作ってくれると思います。
床の養生を取り去ると大理石の階段が出現します。
晴れた日の午前、太陽光線がどんな陰影を
作ってくれるのかとても楽しみです。


















夜は仕事を少し早めに切り上げ取引先から招待して頂いた
シンフォニーホールでの「大阪フィルハーモニー」の
定期演奏会へスタッフ全員で出かけました。

昼間の穏やかな空間と同じような優ししく洗練された演奏に
心がとても和みました。
たまにはクラシックもいいものですね。


















2012年4月23日月曜日

穏やかな日




週末「記憶の家」は施主検査でした。
前日まで雨模様で天候をちょつと心配してましたが、
当日はすっかり晴れて気持ちのよい日でした。















リビングの五連引き込み戸にも同様の障子戸が取り付けられ
柔らかな光がリビングダイニングを包み込みます。
Yさんの奥様もこの障子戸を通した光がお気に入りだったようです。














広々としたリビングを走り回る「マー君」。
彼の一番のお気に入りはリビングに接した和室。
体を大の字にして畳に寝転ぶのが気持ちいいようです。











通り土間には薪ストーブが置かれました。
冬にはこの土間とリビングとの間にある大きな引き込み戸を
壁の中に格納して一部屋として使います。
ストーブと床暖房でエアコンは使うことが無いかもしれません。


















当日は午後から京都府城陽市で住まいを考えられている「Nさん」ご家族が
見学にお見えになりました。

私は基本的にオープンハウスはしない主義ですし、住まいは施主様、土地
環境によってまったく異なるカタチになるため、参考になりにくいのではないかと
思っておりますが、今回は住まいに対する考え方や生活の為に工夫した点
実作での「空間感」などを現地で確認していただくことが目的でした。
施主のYさんとも少しお話いただいて、ちょっと安心していただいたでしょうか。
お子様も2ヶ月違いだったようで仲良く遊んでました。
あちらこちらから一日中室内にそよ風が入ってきて気持ちのよい日でした。

翌日、「Nさん」から僕の住まいに対するこだわりがよくわかりましたと
お礼のメールを頂きました。














近くの畑ではヒバリが鳴いたり、ツバメが巣作りを始めており、
家の中まで偵察に入ってきたりしてました。
ツバメ君、撮影が済む来週まで巣を作るの待って欲しいなあ。お願いします!

敷地南側の畦道でスミレに似た花を見つけました。
スミレ科の花は日本の基本種類だけでも56種類程あるそうですが
この花、調べてみましたがその中に該当するものはありませんでした。
でも葉や花の形状からすると間違いなくスミレ科だと思うのですが。。。


2012年4月18日水曜日

名残桜






桜の季節も終わり、名残桜が残る「海に背を向ける家」の近くにある青谷川は
散り落ちた花びらで川岸がピンク色に染まっていた。

季節は少しずつ巡り、初夏のような日差しがアトリエの庭を包む。
いくつかのプロジェクトが終盤を迎え、また新しいプロジェクトが始まる。



感傷的になっている場合でもないが、
忙しさにかまけ日々の小さな出来事を見逃しそうになる。

こういう時こそ心を豊かにし、落ち着いて周りをゆっくり見渡そうと思う。


これから考えなければならないプロジェクトの「かけらのようなもの」が
頭の中をぐるぐると駆け回り、掴み取ろうとする手をするりと抜けていく。


いつものことだが、生みの苦しみを感じるほど納得のいく「かけら」を
手に入れることができるような気がする。
過去のプロジェクトもそうやって「カタチ」を構築していった。


枝に残った名残桜をじっと眺めるのもいいだろうが、
川岸に散った桜の花びらを砂金取りのように果てしなく掬い取り
「宝石のかけら」を見つけ出す作業もまた楽しいものだ。



2012年4月16日月曜日

「記憶の家」竣工検査







本日は「記憶の家」の竣工検査でしたが、何事もなく無事終了しました。

現場ではまだ植栽などの外構工事、照明器具の取り付けなどが残っています。
今週末に設計検査、施主検査を行い、来週末にはソファ、ダイニングテーブルなどを
搬入してカメラマンによる撮影を行います。

設計のお話をいただいたのが一昨年の秋でしたから、完成まで1年6ヶ月が経過しました。
でも本当に早いもので、あっという間に過ぎてしまいました。

お子様の「マー君」は当初乳母車に乗せられた赤ちゃんでしたが、
今は元気に走り回り、いろんなことをしゃべります。そしていっぱいいたずらをします。。。。

全貌が見えた南面。5連の木製建具が取り付けられました。
下は正面玄関のある北面。広い敷地の中の一番奥に建てられています。

ハンガー吊の玄関建具。全開口するとワイド2.3メートルの玄関土間になります。
中にもう1枚内土間用の引き違い戸があり、空間に間合いを持たせてあります。
この木製建具の取手が木工作家「徳永順男」さんに「たたら鉋」で仕上ていただいたもの。
握ると手仕事のぬくもりが伝わってくるはずです。

リビングダイニングも内装仕上げが終わり、照明器具、美装などを待つばかり。
奥は和室になります。壁・天井共沖縄特産の「月桃紙」を貼っています。


リビングの5連引き込み戸、防犯ガラスを使っていますが、
防寒用に内側に同様の5連障子戸が用意され、また床暖房も
縁側ぎりぎりに仕込んであります。

薪ストーブが置かれる通り土間。右側の白い壁の部分にセットされ、
リビング建具を全開にし土間と一体化して広く使えるようにしてあります。
下の写真が通り土間ですが、左に見える縦格子の建具がリビングの
引き込み戸まだガラスを組み込んでいません。
壁はすべて漆喰の鏝仕上げです。
そして蛇籠の石塀の向こうには満開の桜並木が見えています。


玄関吊戸は下部に網戸が組み込まれた「無双窓」になってます。
必要に応じて開閉が出来るようになっていて、夏は田畑から吹く風を表通りに抜く
役目をします。つまり家の中を風が抜けていくわけで、クーラーを出来るだけ
使用しないように考えてます。

豊かな自然や日の光、それに自然素材を使ったゆったりとした空間が
そこここに配置され、おだやかな日々を演出してくれると思います。
羨ましい環境ですね「Yさん」!!

2012年4月12日木曜日

長いお付き合い



昨日は、集合住宅「プライマリーワン」シリーズ最新作2棟の地鎮祭でした。

新大阪で初めてデザインしてからもう15年以上経ったでしょうか。
昨日のブログに書いた(株)イング様よりも長いお付き合いです。
その間ずっとスタジオクランツォを助けていただきました。
N社長にはお世話になりっぱなしで。。。。

大阪市北区松ヶ枝町と天神橋1丁目にそれぞれ建設するのですが、
同時着工、同時竣工で来年3月に完成します。
朝10時から天神橋1丁目の地鎮祭、続いて11時から松ヶ枝町の地鎮祭。
神主さんはそれぞれ別の方ですが、参列者は同じメンバーなので
大忙しでした。でも神事は滞りなく終了しました。

こちらは天神橋1丁目。

そしてこちらは松ヶ枝町 。同じように見えますが違います。
地鎮祭が始まる前の写真はなかなか撮るチャンスがありませんでした。

設計者が二人なので「刈り初めの儀」は2棟とも一人ずつ2回しましたよ。
これから1年間、施主の(株)プライマリー様、施工者の
(株)昭和工務店さんとまたお付き合いが始まります。
昭和工務店さんには「記憶の家」「海に背を向ける家」の施工も
お願いしています。

夜には店内改装を担当して2年近くご無沙汰してしまった
フレンチレストラン「エテルニテ」へメンテナンスも兼ねて伺いました。
なかなか伺うチャンスがなくて。。。その間にマダムにはお子様が誕生し
もう6ヶ月になられるそうで。。。
シェフお祝いもせず本当に申し訳ありませんでした。

料理の内容ちゃんとブログに載せておきますから。
前後して食事に行かれた「海に背を向ける家」の奥様も
とても美味しいと仰ってましたよシェフ!

まずはエスカルゴとバターを生地の中に閉じ込め
サックリと揚げたアミューズから。
スプーンの中は人参を軽くマリネしたもの。

ホワイトアスパラとオマール海老の前菜、バジル風味のクリーム添え。

カサゴのロティ。筍や春野菜、菜の花のソース添え。

乳飲み子豚のロースト。色々な部位を添えて。
クセのないとても柔らかなお肉でした。

デザート前菜。苺とそのスープ。木苺のジェラートと共に。

メインのデザート。バナナクリームが入ったショコラのカップ。
下にピスタチオのクリーム。

お茶菓子。生チョコ、マスカルポーネのシュークリーム、無花果のケーキなど。

久しぶりにシェフとお話が出来て嬉しかったです。
お店も繁盛されているようで、自分達がデザインした星付きのレストランで
食事が出来るなんて設計者冥利に尽きますね。

そして、多くのクライアントの皆様と長いお付き合いが出来るのが一番嬉しいです。

皆様これからも宜しくお願い致します。


2012年4月10日火曜日

パーティ





昨日、私どもの主要法人クライアントの1社である「株式会社イング」様の
創業30周年記念パーティがポートアイランドホテルで盛大に開催されました。
「INGNI」のブランドで知られる若い女性に絶大な人気のファッションメーカーです。

丁度15年前の1999年、当時の代表取締役社長であった「Aさんご夫妻」が
ご自宅の設計者を探されている折、ある設計組織を通して知り合いました。

年齢が一緒であったことや建築デザインの感性をとても気に入っていただき
意気投合し設計を任せていただいたのがお付き合いの始まりです。
当時名刺をいただいたのですが、確かに代表取締役社長とありましたが
失礼ながら女性服には疎く正直名前も知らない会社でした。

「Aさん」のお住まいの竣工予定まで3年程時間がありました。
そこでその間に事務所兼集合住宅を別途計画しているが、
一度会わせたい人がいると紹介されたのが「O会長」でした。
早速資料をいただき集合住宅のプレゼンをしたのですが、
プランをとても気に入られすぐに設計を始めるように依頼されました。

それをスタートに数多くの建物の設計をさせて頂きました。
たった3人の小さな設計事務所に建築の可能性を託していただいたことに
本当に感謝しています。
なかでも本社・物流センターの設計は思い出深い建物でしたし、
スタジオクランツォを大きく羽ばたたせてくれた作品であったと思います。

お二人には言葉では言い尽くせない支援を頂きましたし、
ずっと変らずフランクにお付き合いをさせて頂いていることを
心の底から感謝しております。

設計を担当した本社・物流センターの映像を前にお話していただいて
なんだか目頭が熱くなってしまいました。





パーティがお開きになり帰ろうとしていると、O会長(代表取締役ファウンダー)の
奥様が「駅まで送るから一緒に車乗って行ったら」と仰ってくださいました。

私もお会いするのが久しぶりでしたので、お言葉に甘え同乗させていただきました。
車に乗る瞬間なんとなくいつもの車に似ているけれど何か違うなあと感じてました。

運転手さんに車新しくなったんですか?と聞いてみたら、去年新しくなりましたよの返事。

な、なんと車名にRが2つ付く世界の最高級車になってました。
こんな車なかなか乗るチャンスもないのですが。。。

ちょこっとだけ車内の写真を撮らせていただきました。
ドアの開閉も軽く押すだけでちゃんと閉じてしまいます。
あんまり恐れ多くて、シャッターをたくさん押せませんでした。

人との出会いとは不思議なものですが、出合った方々と
ずっとお付き合いできる喜びは格別のものです。

同じ歳の「A会長」を拝見していると、知り合った頃僕に語られていた
「願い続ければ叶う夢」を確実に実現されている。

本当にお二人とも「真の男」を感じる素晴らしい方々です。
これからもお付き合い宜しくお願いいたします。

2012年4月9日月曜日

「錨を下ろしたフロートハウス」始動!



日曜日、和歌山県新宮市で計画を温めていた住まい「錨を下ろしたフロートハウス」の
概算見積提出立会いのため「ASJ紀伊田辺スタジオ」を訪れた。

施主の「Mさんご夫妻」も新宮市から田辺市までお越しいただいた。
自分達の考えている予算と見積がかけ離れていないか心配だったようですが
なんとか近い数字がスタジオより掲示され、まずはホッとしたところでした。

3月始めのファーストプレゼンもドキドキだったそうですが、
今回は予算に絡む話だったので余計にハラハラ、ドキドキだったそうです。

何とか提案したプランが新宮の街に建ちそうです。
施主も施工者も私達もこのプランを是非建てたいと願っていたので
私もちょっと嬉しくなってしまいました。

新宮までは大阪から特急電車で4時間程かかりますが、
あまり時間の長さを感じません。

何故なんだろうといつも不思議に思っていたのですが、
名古屋の「抱きしめられる家」もこの「錨を下ろしたフロートハウス」も
電車に乗っている間ずっとその建物の事を考えているんですよね。
だから、時間の長さをあまり感じない。
たつの市の「記憶の家」や岡山県瀬戸内市の「櫻山居」でもそうでした。
心底、建築が好きなんでしょうね。

敷地に3mほどの足場を組みそこへ登って浮島や神倉山が2階リビングから
どのように見えるのか検証しないといけません。
山の美しい部分だけを切り取って室内に取り込みたい。。。。

1階の平面計画。東、南方向からの光が玄関ホール、階段廻りで
悪戯に遊びまわるはずです。

2階プラン。右奥はご主人の隠れ場所!?になるAVスペース。
L字型にリビングダイニングがレイアウトされキッチンで作業しながら
神倉の山々を望むことが出来ます。

打合せが終わり、帰りの電車の時間まで余裕があったので
田辺の街を少し歩いてみようと思い、どうしても行ってみたかったところ
「南方熊楠顕彰館」へ向かいました。
この建物は2003年公開コンペによりインテグレート・デザイン・アソシエーツ+
堀アーキテクツが設計を担当し2005年7月に完成している。

外壁は溶融亜鉛メッキリン酸処理したものを横張りにしてあります。
ガラスフレームの内側に木組みの格子を使ってあり、
内部に入ると日本的な空間美がどこと無く漂っています。

当時、熊楠が生活していた住まい。
この辺りは田辺市の中でも比較的裕福な方達が当時から住まれてて
いたのではないでしょうか。街並みが落ち着いていて敷地も広く
家の作りも立派です。
家の中から熊楠さんがひょこり顔を出しそうな佇まい。


新旧の建物が絶妙なコントラストを作っていますが
この風景がとても新鮮です。

この風情のある街並みを歩いて行くと 海へ出ました。
扇が浜という海水浴場もある、田辺市民憩いの場所。
田辺湾の対岸には白浜の旅館街が霞んでいます。

「春の海ひねもすのたりのたりかな」と与謝蕪村を思う
のどかで、どことなく幸せな風景です。

ゆったりと心を落ち着かせる素敵な時間を過ごす事が出来ました。

「Mさん」完成までは1年半程ありますが、いろんな事話ながら
納得のいく家づくりしましょうね!